【壁ドン企画】争奪戦の末に~少し頼りない彼の場合~
少し頼りない彼の場合
入り口があれば、出口がある。

同じように、始まりがあれば、終わりがある。

それが当たり前で、確かにそうだと思うし、間違いはないはず。

けれど、私には目の前で繰り広げられている舌戦はどうにも終わる糸口を見つけられない。始まりはたくさん見つかるのに、たった一つの終わりも見つからない。続ければ続けるほど、二人は険悪になるばかり。

「で、俺はいくらでも待ってやるよ、楓のことならな。でも、柏木のことを待ってたわけじゃねえ!」

口悪く声を荒げるのは、彼氏の啓太。普段は大人しくて優しいのに、今日はお酒も大分入っているようで、いつもに増して言葉がポンポン飛び出してくる。

「何よ、私が楓を連れてきてあげたのに?楓の仕事を手伝ってあげたからこの時間にこれたことを感謝して欲しいくらいなんですけど?小っさい男ねぇ、啓太って」

啓太の勢いにも全く引く気配も押される気配もなく辛辣に言い放つのは、同僚で親友の柏木良子。彼女の言うとおり、急な仕事が入って、デート待ち合わせの時間に間に合わず、仕事終わりに一杯おごる話で良子と待ち合わせの店に来たところから始まった。

「はいはい、ありがとうございますぅ。楓だって大人なんだから、一人でココまでこれるのに、お前がいつもいつも付いて来るんだよ!それじゃあ邪魔虫はさようならでさっさと高志さんとこ帰れ!」

「楓の気持ちを汲んで揚げられない訳?虫の居所が悪いだけで、突っかかってこないでほしいわ。そんなだから楓のことを任せるのが心配なのよ!」

こんな調子で言い合いが終わらないので、思わず店から二人を引きずりだしたが、外に出ても、口論は止まらない。

「ちょっと、二人ともっ」
「楓の話をしてるんだ!」
「楓の話をしてるの!」

口を挟もうにも、タイミングを図ったように見事なハモりを返される。

もう、ホントにくだらない。

どうでもいいことで、張り合っているだけなんだから。

犬猿の仲というか、喧嘩するほど仲がいいというか。

この二人が揃うと、私について喧嘩ばかりする。良子は啓太が頼りなくて心配みたいだし、啓太は過保護すぎる良子が気に入らないらしい。

「いい加減にしてって!」

二人の間に入って両腕を広げると、両腕分だけ距離を置いた二人がやっと一瞬口を止める。

「何だっていつもいつも同じ内容でそうやって言い争うの!結論もないし、正解もないし、私は放って置かれるし、こんな往来で恥ずかしいしやめてよ!」

毎回、同じパターンで止めているが、なんて学習能力のない二人なのだろう。

元々この二人は同じ大サークルだったよしみで遠慮会釈もなく好みも似ている。

そして、男と女という立場の違いはあれど、なぜか私の相方であるという立場を争っているのだ。

相方=親友の良子と言うをを面白く思わないのが、彼氏=相方と思う啓太。むしろこの二人が付き合ってしまえ、とこちらが嫉妬してしまうほど。しかし、この二人にお互いを異性として見る意思はないようで。

「大事な彼女一人守れない男が、彼氏面するくらいなら奪ってやる」
「同じ職場だからって、好き勝手してるのは聞いてんだぞ。いつも女同士でベタベタしやがって」

啓太にわかってもらいたいところだが、どちらにしてもそんなくだらないことで延々繰り返される水掛け論に相変わらず終止符は打てないまま。

よろよろと二人を放置して店の壁にもたれる。

もう好きなだけやってくれ、と俯いて重いため息を吐き出していたら、男物のつま先が視界に現れる。


「やっと来てくれた・・・っ」
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