キスしなかったのは……
「あ……課長」



イタズラを仕掛けていた人が、まさか上司だなんて思いもせず、声が裏返ってしまった。




それをクスッとも笑ってくれない課長の顔は、ちょうどダウンライトの明かりと重なり、逆光になっていてよく見えない。




首を傾けて、なんとか顔が見えるようにしてみる




それと同時に動いた課長のシルエット。




スーっと伸びてきた課長の手




その手が私の髪の毛を一束掬い取り指に絡めるのはあっという間の所作だった。



クルクルと弄ぶように指に巻き付けては、解くを繰り返している。




「あの……」





「咲良(さくら)は悪い子だね。

俺の腕の中であんなに可愛く啼いてたと思えば、もう他の男の前で微笑んでる」




課長の言葉に、ある記憶が脳裏に一気に甦る。

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