愛すべき日々[掌編集]
『わぁー、これかわいいっ。ねぇ雄太、これ買って?』
 ショウウィンドウに飾られた、蝶々のネックレス。欲しいとは思ったが、明らかにゼロが一つ多い。
『バカ、俺の稼ぎでこんなもん買えるわけねーだろ』
『冗談。わかってるよ。いくらなんでも高すぎるもん』



 まさか雄太が、あのときの会話を覚えてたなんて思ってなかった。
 ネックレスを見て放心している私に、雄太はキスを落とした。

「構ってやれなくてごめんな。これ買うために、仕事の後にバイトしててさ。ほら、つけてやるよ」

 私の首にネックレスがつけられた途端、またしても涙が溢れる。
「バカ、泣くなよ」
「だっ……て、……雄……太に、嫌われ、……ちゃった、って思っ……たんだ、も……」
「嫌いなわけねーだろ。この二週間こんなに頑張って禁欲生活続けたんだから」
「……えっ?」
 瞬間、雄太に抱きかかえられた。

「美紅、誕生日おめでとう。……ってことで、いただきまーす」
「……えっ、ちょっ、雄太」

 首から下がる蝶々が、嬉しそうに揺れた。
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