永遠の果て
 母がお風呂から出てくるまで、この空間には父と私の二人きり。

『久しぶりに娘に会うのが照れくさいだけなの』
 とてもじゃないが、照れくさいようには見えない。
 気づかれないように、二階にある自分の部屋へ行こう。そっと、リビングの扉の取っ手に手を掛ける。

「詩織」
 取っ手に掛けた手をさっと戻す。同時に「何?」振り向いた。

「…後悔、してないのか」
 後悔なんてするはずがない。自分で望んだことなのだから。
「してないよ」
「……そうか」
 テレビの方を向いていて、表情はよく見えない。けれど、背中越しに私を気遣う声が、とても優しく感じた。
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