年上のあなた、年下のきみ


「あのセリフは、間をたっぷり取って一言一言大切に言って。愛する人に、自分の気持ちを伝える大切なシーンで、この舞台の見せ場でもあるから。あっそれから、お客さんからの見え方と、あとライトの位置を意識して。でも意識しすぎて固くならないように、できるだけ自然な感じでね」


一体ぼくは何を期待していたのか……なんてことはないただのアドバイスに、落胆が胸に広がっていく。


「軽い感じで言わないでくださいよ、谷中先輩。これでもぼく、初めての大きな役でいっぱいいっぱいなんですから」


落胆を顔には出さないように気をつけて言葉を返すと、先輩はふふっと可笑しそうに笑った。


「何言ってるの、木田くん。あなたなら、これくらいできると思っているから言っているのよ」


先輩は本当に、人を乗せるのがうまい。

乗せられているとわかっていて乗ってしまうのは、ぼくの中に先輩に対する特別な感情があるせいかもしれないけれど、それにしたって、自分でも笑ってしまうくらいその言葉に闘志が湧いた。
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