ENOLA
神様へ
ラヴレター
しとしとと雨の降る中を、怜央と私は傘を並べて歩いていた。
特に交わす言葉もないけれど、幼い頃から無言で怜央の隣を歩いてきた私にとってはその方がかえって落ち着く。
「…今年も紫陽花が咲くね。」
何気なく怜央が目をやった先には、まだ緑の紫陽花の花がいくつもあった。
怜央の隣を離れ、その紫陽花に近づいていく。
しとしとと降る雨の粒がつぼみの上でぽろぽろと踊っていた。
「怜央、綺麗だよ。」
手招きをして、怜央を紫陽花のそばまで呼ぶ。
2人して傘を並べて紫陽花を眺める姿は、端から見ればどう映るのだろう。
誰もが口をそろえて『付き合ってるの?』と言うのだろうか。
それとも『兄妹?』なんて言うのだろうか。
そんなことを頭の片隅で考えながら紫陽花のつぼみを小さくつつくと、つぼみの上ではねていた雨粒が一斉にぽとんと地面に落ちていった。
「あーあ、綺麗だったのに。」
怜央は丸めていた背を伸ばすと、「帰るよ」と私の水色の傘をつついた。
* * *
怜央の家と私の家は道を挟んで向かい合わせになっている。
お互いの部屋も向かい合わせなものだから、朝起きてまずはじめに目に入ってくるのは怜央の部屋なわけで、きっと向こうもそうなんだと思う。
「あっ」
もうすぐ家に着くなー...なんて考えていると、急に怜央が何かを思い出したように足を止めた。
怜央の上げた声が案外大きかったのと隣の傘が急に見えなくなったことに驚いて、私も怜央の一歩先で足を止めた。
「どうしたの?」
「朝比奈さんと約束してたの忘れてた…」
朝比奈…さん?
誰だっけ、と一瞬考えたあと、心の中で『ああ、あの子か』と付け足す。
小学校は違ったけれど、中学校から一緒の、朝比奈 七海ちゃん。
いつも教室の片隅で文庫本を読んでいる、黒髪が綺麗な女の子だ。
どこか、怜央の纏う雰囲気と朝比奈さんの纏う雰囲気は似ている感じがする。
特に仲が良いわけでもないけれど、そこまで悪いわけでもない…そんな間柄。
「大事な…約束?」
聞いていいことかどうかは分からなかったから、控えめに尋ねる。
「ん?そうでもないかな。あとで謝っておくよ。」
怜央はそう言うと、また何事もなかったように歩き始めた。
急に大声を上げるから何か大変なことでもあったのかと思ったじゃない。
あとで謝るので済むくらいの用なら、はじめから大声なんて上げなければいいのに。
そんな文句も言えないままに、怜央の家の扉の開く音がする。
「じゃ、一旦着替えてからご飯食べに来てよ。」
振り向きざまに怜央はそう言った。
「はーい。」
気の無い返事をしながら私も自宅の扉に手をかける。
そういえば、今日の晩御飯はなんだって言ってたっけ。
特に交わす言葉もないけれど、幼い頃から無言で怜央の隣を歩いてきた私にとってはその方がかえって落ち着く。
「…今年も紫陽花が咲くね。」
何気なく怜央が目をやった先には、まだ緑の紫陽花の花がいくつもあった。
怜央の隣を離れ、その紫陽花に近づいていく。
しとしとと降る雨の粒がつぼみの上でぽろぽろと踊っていた。
「怜央、綺麗だよ。」
手招きをして、怜央を紫陽花のそばまで呼ぶ。
2人して傘を並べて紫陽花を眺める姿は、端から見ればどう映るのだろう。
誰もが口をそろえて『付き合ってるの?』と言うのだろうか。
それとも『兄妹?』なんて言うのだろうか。
そんなことを頭の片隅で考えながら紫陽花のつぼみを小さくつつくと、つぼみの上ではねていた雨粒が一斉にぽとんと地面に落ちていった。
「あーあ、綺麗だったのに。」
怜央は丸めていた背を伸ばすと、「帰るよ」と私の水色の傘をつついた。
* * *
怜央の家と私の家は道を挟んで向かい合わせになっている。
お互いの部屋も向かい合わせなものだから、朝起きてまずはじめに目に入ってくるのは怜央の部屋なわけで、きっと向こうもそうなんだと思う。
「あっ」
もうすぐ家に着くなー...なんて考えていると、急に怜央が何かを思い出したように足を止めた。
怜央の上げた声が案外大きかったのと隣の傘が急に見えなくなったことに驚いて、私も怜央の一歩先で足を止めた。
「どうしたの?」
「朝比奈さんと約束してたの忘れてた…」
朝比奈…さん?
誰だっけ、と一瞬考えたあと、心の中で『ああ、あの子か』と付け足す。
小学校は違ったけれど、中学校から一緒の、朝比奈 七海ちゃん。
いつも教室の片隅で文庫本を読んでいる、黒髪が綺麗な女の子だ。
どこか、怜央の纏う雰囲気と朝比奈さんの纏う雰囲気は似ている感じがする。
特に仲が良いわけでもないけれど、そこまで悪いわけでもない…そんな間柄。
「大事な…約束?」
聞いていいことかどうかは分からなかったから、控えめに尋ねる。
「ん?そうでもないかな。あとで謝っておくよ。」
怜央はそう言うと、また何事もなかったように歩き始めた。
急に大声を上げるから何か大変なことでもあったのかと思ったじゃない。
あとで謝るので済むくらいの用なら、はじめから大声なんて上げなければいいのに。
そんな文句も言えないままに、怜央の家の扉の開く音がする。
「じゃ、一旦着替えてからご飯食べに来てよ。」
振り向きざまに怜央はそう言った。
「はーい。」
気の無い返事をしながら私も自宅の扉に手をかける。
そういえば、今日の晩御飯はなんだって言ってたっけ。