執事が男に変わる時
「いつもありがとうございます」

今日も微笑んで運転席の彼の方を向くと、彼の左手がハンドルから離れ私の首の後ろに回った。

え……?

真剣な眼差しが近づいてきて、私は簡単に引き寄せられる。
目を閉じるべきだったのかもしれないと気づいたのは後で、私の目は見開かれたまま彼と私の唇が軽く触れた。

一度離れた唇がもう一度重なり、私は目をぎゅっと閉じる。
ためらいがちながらも舌が唇を割って咥内に入ってきても、私はされるがままだった。

ゆっくりと唇が離れ「大切にするから」という言葉とドアが開く音がした。

瞳を開いた私は、助手席に回ってくる彼を目で追う。

頭は真っ白で何も考えられず、自分の心臓の音だけがやけに煩さかった。
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