愛してる


「咲、ちゃんと学校まで行ける?」

心配そうな母の言葉は昨日からもう5回以上聞いている。
わたしは少し呆れ気味に返した。

「大丈夫だって母さん、昨日下見したんだから」

それでも不安そうな母の表情は消えない。まったくーー子供じゃないんだから。

「まあ、行ってきまーす」

過保護にも玄関まで見送る母を背に、わたしは家を出た。

今日は新しい学校への転校初日。それも5回目の転校になる。もはや慣れたものだが、初日はやはり緊張するものだ。

昨日覚えた学校までの道のりをいつもよりやや早足で進み(緊張のせい?)、校門の前に到着したところでわたしは1度大きく深呼吸をした。

まわりを見渡すと登校する生徒がわたしをチラチラと見ている。ーーような気がするのは気のせいか。

ええと、まずは職員室に行かなきゃならないんだっけ。さすがに登校ラッシュの生徒で混雑する正面玄関を抜けて校内に入っていく勇気はない。
辺りをキョロキョロと見渡すと、正面玄関から少し離れた場所に別の入口を見つけた。隣が駐車場なところを見ると、職員玄関かなにかだろう。わたしはそこから中に入ることにした。

扉を開けて、思わず1歩引いてしまった。中には"先客"がいた。
後ろ姿のその男性はわたしに気付き、こっちを振り向いた。目が合う。

「あっ……」言葉が出てこなかったのは、思わず見とれてしまったからだ。なんて、"綺麗"な顔をしているんだろう。ハタと我にかえり、軽くお辞儀をした。
相手は不思議そうにわたしを見つめている。そして口を開いた。

「あれ、もしかして……」そう言い、口角が少し持ち上がった。「大山 咲さんかな?」

驚いた。どうしてこの人がわたしの名前を?わたしはぎこちなく頷いた。

「あ、はい……そうですけど」

するとその男性の顔がパッと明るくなった。ニコっと微笑み、わたしに手を差しのべる。

「はじめまして。大山さんの担任を務めさせてもらうことになります、上杉 (カミスギ)です」
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