喪失

12月

そして、季節は流れ。

あれから一か月が過ぎようとしていた。

春次郎さんから、手紙が来ることはなかった。

そして私も、何度も書いたけど、出せなかった。


春次郎さんのちょとした言葉に、勝手に傷付いて、勝手に帰ってきたのは私。

だから、手紙を出して謝ろうにも、恰好がつかなかったんだ。


でも、バイトだけは続けていた。

また、S県に行けるだけのお金は貯まっている。

このまま何もしなければ、何もなかったことになる。

それは、分かってる。


そんなある日、あっさりした白い封筒が、ポストに入っていた。



「え、」



高梨春次郎―――



もう、私のことなんて忘れてしまったと思ってた。

それなのに、こうして手紙が届いた。

だけど、きっと春次郎さんは怒ってる。

どんな中身か怖くて、私はなかなか開けられなかった。





すみれへ


この間は、ごめん。

嫌な思いをさせたね。

一人で帰してしまって、本当に申し訳なかった。

追いかけたけど、君は逃げ足が速いものだから、見つからなかったよ。

ずっと手紙を送らなかったのも、ごめん。

意地悪じゃないよ。

ちょっと、体調が悪くて。


すみれに言われたから、病院に行ったよ。

近くの個人病院なんだけど、風邪だろうって。

薬を貰って帰ってきたんだ。

だけど、その薬が効かなくてさ……。

やっかいだな、ほんとに。


自分の話ばっかりでごめん。

あーもう、ほんとに僕はバカだ。

打ち上げなんて行かずに、君と一緒に過ごせばよかった。

すみれは、頑張って働いて、せっかく会いに来てくれたのに。

君の気持ちを台無しにするようなことをして、ほんとにごめん。


もし、もしも許してくれるなら。

僕にもう一度チャンスを与えてほしいんだ。

来週の土曜日、すみれの誕生日だよね。

その日に、ちょうどクリスマスライブを開くんだよ。

もしよかったら、来てほしい。

今度はきっと、寂しい思いなんてさせないから。


待ってます。



春次郎
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