【壁ドン企画】ダイエット
大学合格とともに彼は東京で一人暮らしになった。

それは地元大学に通うことにした私とは遠距離恋愛が開始することを意味した。

高校の時に告白されて、それからずっと一緒だった。

離れて大丈夫かな、と過ぎった心配は全く問題なく、連絡もマメに来るし、会えるのは月に1回が限度だが、会えない時間を埋めた。


しかし、心配事が一つ。

一人暮らしをしてから、たった数ヶ月。

外食やコンビニ弁当が多くなったせいか、少し丸くなった気がする。

ベルトの穴が一つずれたのにも、気づいてしまった。

お腹の肉をそっと摘んだら、「太ったんだよ」と彼は赤くなって恥ずかしがった。

自覚があるなら救いようがある。

確かに、慣れない一人暮らしで、バイトもして、大学にも通って、サークルにも所属すれば時間はないし、疲れてしまう。

外食に頼る気持ちも、コンビニや冷凍食品に頼る気持ちもわかる。

食べ過ぎるのも、スナック菓子が多いのも、間食が増えるのも、一人だと止める人がいないから、つい手が伸びてしまうのだろう。

でも、ここで心を鬼にしなければ、ずるずる体重が増えてしまう。

1Kの狭いキッチンで料理をするのは大変だったが、手料理を振舞う約束を実行し、野菜をたっぷり使ったおかずを並べた。

味も口に合ったようで、おいしいおいしいとたくさん食べてくれた。

お腹も満たされて、話をしながら二人で片付けを済ませる。

このまま結婚してもいいかも、なんてにやにやしていたら、「そう言えばアイスあるよ」と冷蔵庫を開けようとした彼に慌てる。

「ダメ!」

冷凍庫の扉に手をかけた彼の上から覆いかぶさる。

ちょびっとだけ開いた冷凍庫はパフっと冷気を吐いて閉じる。

「ダイエット、しましょ」

別に、ものすごく太ったわけじゃない。

奥さんでもないし、一緒に住んでるわけでもない。

彼の食生活に口を出す立場にないと言われたらそれまでだけれど。

冷蔵庫と私の間に挟まれた彼がニヤリと笑う。

「甘いものも、食べたいけど、ダイエットもしなきゃね」

悪巧みをしている顔だったので、何を言われるか緊張したが、至極全うな意見に全力で頷く。

冷凍庫に伸ばしていた彼の手も下ろされる。

「ダイエットは明日から、ってならないようにね」

体を起こして、ついでに彼の手を取って立ち上がらせる。

「じゃあ、さっそく今から」

「今から?」

繋いだままの手を引かれて、彼の腕の中に倒れこむ。

「危ないじゃない」

よろけることもなく、しっかり抱きとめてくれた彼の強さに、照れ隠しも含めて抗議する。

「甘いモノを食べつつ、運動するの」

さも当然のように断言する彼の顔を唖然と眺めていたら、身体を持ち上げられる。

1Kの狭い部屋にあるベッドまではあっという間。

二人分の体重を支えるパイプベッドが不満の声を上げた気がする。

「いただきます」

耳元で囁かれた声は、ひどく甘く感じた。






甘いモノを食べつつ、運動。

月に1回じゃ、ダイエットにならないけどね。
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