男のひとり言ー「むとうさん」番外編
武藤は薄々気づいていた。父親達がやっている飲み屋が経営不振だということ。

中学に上がってから昼食を自分で調達しなければいけないのに毎日テーブルの上に置かれる生活費が減っていって、高校に上がると同時にバイトするから、と小遣いを自ら断った。

経営不振なだけじゃない。父親は時々家に知らない女を上げた。母が自分のスナックで働いているときに。その日は父は一万円札を武藤に渡し、一晩家から追い出した。

武藤は小さな頃から機械が好きで、特に自動車に興味があった。地元の暴走族とつるむ先輩の単車や、時に自動車を運転させて貰っていた。

追い出された夜は、パチンコ屋の駐車場や、コンビニの前で仲間とずっとやってくる車を見て、あれがどうだ弄り方がダサいだのアイスを食べながら品評会をした。

まずは免許を取る前に車が欲しい、と、地元の先輩が格安で譲るよというシーマの中古を目指してこっそりバイト代を貯金していた。今思うと無免許で車を持つという無謀さに呆れる。

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