クールなお医者様のギャップに溶けてます
そこには白衣に身を包んだ先生もいて、ドキっとしてしまう。

私、普通に出来てるかな?
さっきまで先生と一緒にいた、って思うだけで、顔がにやけそうになっちゃう。

なるべく先生の方を見ないようにして、マスクを目元ギリギリまで伸ばし、師長の話しに集中する。

「新年早々かつ非常に急な話しですが、山田さんの退院日が決まりました。」

え?

「山田さんはここの所、体調が安定しています。それにより、以前より申し出があったご自宅での看取りの許可が院長より下りました。ただ、年齢からしてもいつ何時何が起きるかは分かりません。ですので、これを機に当院でも訪問介護が始まります。明日、新年の挨拶の時に院長から話があるはずですが、皆さんには先にお伝えしておきます。」

自宅での看取りは前々からご家族が希望していて、そのための勉強や、リフォームもしていると言っていた。
山田さんの体調と、自宅のリフォームの完成が早まった事で予定より早い退院になったけど、それにしても急だ。
喜ばしい事だけど、心配。

「山田さん、体温と血圧測りますね。」

「おぉ、亜樹さんか。師長さんから聞いたかな?急なんじゃが、退院する日が決まったんじゃ。亜樹さんには本当に世話になったなぁ。」

体温計を慣れた手つきで脇に入れながら山田さんは話す。

「退院が決まって良かったですね。息子さんによれば綺麗な自宅に変わったそうじゃないですか。楽しみですね。」

「あぁ。亜樹さんに会えなくなるのはさみしいが、やっぱり家に帰れるのは嬉しい。」

「体調崩したらすぐに連絡して下さいよ。」

うんうん、と大きく頷く山田さんの目には涙が溜まっている。

入院生活からの解放。
それは、このまま家に帰れないかもしれないと思う不安からの解放でもある。

退院は心から嬉しいだろう。

師長が言っていたように何が起きてもおかしくない状況に変わりはないけど、心配よりも喜ばしい事として退院させてあげなきゃいけない。

「これ、山田さん専用のアロマオイルです。退院日にご家族に渡しますね。」

「ありがとなぁ。」

目をさらに潤ませる山田さんを見ていたら私も目に涙が溜まってきた。

「長生きして下さいね。」

「ありがとうよ。あ、そうだ、これ。」

体温計を外すと、枕元にあったパンフレットと一緒に渡される。

中を見てみるとそれは結婚式のパンフレットだ。

「孫の初めての事業じゃ。弁護士の彼女と一緒に協力して式場をリニューアルした。亜樹さんが結婚式を挙げる時はここで挙げてくれんかのぉ?」

「でも、ここって有名な式場ですよね?」

「おかげさまでな。でも、亜樹さんには全て無償で提供しよう。これは孫と決めたんじゃ。」

「そんな、悪いです!挙げさせて頂くにしても、お代は払います!」

「ケッケッケッ、じゃあ、サービス位はさせて貰うから、決まったら連絡をおくれ。そして、花嫁姿をわしに見せておくれ。」

「ありがとうございます。」

こんな特別な配慮とかは受けちゃいけない。
だから気持ちだけしっかり受け取らせて貰い、頭を下げる。
そして、ありったけの思いを込めてマッサージをすれば、山田さんの涙が一粒零れ落ちた。


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