碧い人魚の海

 15 下働きの仕事

15 下働きの仕事


 次の日早朝、起床係が舞姫の部屋のドアをノックした。
 ベッドですやすやと寝息を立てている舞姫を起こさないように、ルビーはそっと部屋を出た。
 空には満天の星がまたたいていたが、東の地平線のあたりが少しだけ明るくなりかけていた。
 きょうからルビーは見習いの立場だった。まずは朝食の支度などの下働きの仕事を手伝うように、座長じきじきに言い渡されていた。

 厨房に行くと、料理長がもう来ていて、新しい水を汲んでくるように言われた。
 汲んだ水を大鍋に張り、薪を運んで火を起こし、朝食の材料を次々と入れるのを手伝った。そうこうしているうちに何人かの人がやってきて、ここはいいと言われ、洗濯係のところに行くように指示された。

 慣れない洗濯は、水運びより薪運びよりずっと骨が折れた。
 洗濯物は大量で、ごしごしこするのに力を使った。洗濯女は細かいやり方にうるさく、ルビーが洗った衣類をチェックしては、仕上げが不十分だと言って何枚もやり直しをさせた。
 洗濯女が籠を抱えて物干し場との間をせわしなく行ったり来たりしている横で、ルビーはひたすらあらゆる衣装を、それぞれ指示される通りの方法で洗い続けた。

 洗濯場に朝の光が差し、それがずいぶんと高くなる頃、やっとあと何枚かで洗い終えるというところで、使いの子どもが呼びに来た。舞姫が朝食をとるから同伴するように、ということだった。

「まったくいいご身分だね、新米のくせに」
 洗濯女は残り数枚をルビーから受け取りながら、不満げにつぶやいた。
「ごめんなさい。あとお願いします」
「明日はもっと手際よくして、呼ばれる前に洗い終えるんだよ」
 言われてルビーは頷いた。やり直ししなくて済むぐらい上手くできるようになれば、もう少し早く仕上がる気がした。

「ひと働きしてきたんだね。御苦労さま」
 食堂のテーブルに座って舞姫は、ルビーをひと目見るなりくすくす笑った。
「鼻の頭に石鹸の泡がついてるよ、人魚ちゃん。それにシャツが濡れてる。部屋に戻って着替えておいでよ。待ってるからさ」
< 64 / 177 >

この作品をシェア

pagetop