碧い人魚の海
 この用事が終わったらロクサムを捜そう。これが終わったら。この次が。お昼の公演が終わったら。きょうの興行が終わったら。後片付けが終わったら捜してみよう。夕食のあとで。
 そう思いながら飛ぶように一日が過ぎ、気がついたらくたくたで、転がり込むように部屋に戻って、シーツに身を沈め泥のように眠る。毎日がその繰り返しで過ぎていった。

 ところが5日め、早朝の起床係はルビーを起こしに来なかった。
 ルビーが自分から起き出して厨房に行くと、他の手伝いはもうみんな来ていて、料理長には遅すぎると叱られ、やることはもうないと言って追い出された。
 洗濯女のところに行くと、きょうは手伝いに来ないと聞いていたんだけど、と怪訝そうな顔をされた。
 不審に思いながら手伝っていると、水槽に放り込まれた日にルビーを呼びに来たあの女の人が、また呼びに来た。

「あんた何やってるの。きょうは作業はなしだよ。聞いてないの?」
「聞いてない」
「座長が呼んでる。出かけるんだってさ」
「どこへ?」
「そんなこと、あたしが知るもんか」

 座長のところを訪ねて行くと、昼食のあとで出かけるから準備するようにと言われた。
 出かける準備といっても、持ち物など何もない。
 この前ナイフ投げやブランコ乗りが心配していたように、登記所に連れて行かれて焼印を押されるのかもしれない。あとで舞姫にタトゥーのペガサスを見せてもらったときにもう少し詳しく聞いた話によると、焼印を押された日は熱が出て、2、3日は起き上がれずに寝込む場合が多いらしい。

 だったらきょうは何がなんでもロクサムを捕まえて、話を聞かなくちゃ。ルビーはそう考えた。
 きょうはまた、休演日に当たっていた。
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