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―――『御堂さんはお人形のように整っていて、殆どプロフィールが公にされてないことから、謎に包まれた美人デザイナーと言うことで今、日本では絶大な人気があるんです』


謎に包まれた……ね。
確かに顔は可愛いが、あいつの本性知ったらみんなどん引きだぜ?安っぽい肉まんぐらい分厚く包んでおいた方がいい。
中身に幻滅するのが目に見えてる。
俺の内心が顔に出ていたのか、
「すみません、やっぱり書き直してきます!」
と言って慌ててゲラ刷りの原稿を取り上げようとする。


「いえ、ちょっと客観的に読んだら面白いなって思いまして」
またも俺は笑顔を取り繕うと、女記者は「あ、ありがとうございます」とまたも俯いて顔を赤くした。
と言うか肝心のファッションの話そっちのけで、男の興味心を惹く内容ばかり。


まぁどっちでもいいけど。
売れりゃどんな手段だって構わない。
Boundを紫乃と立ち上げて十年。
この十年プレタポルテ(高級既製服)で今まで来た。若い女には手が出ないだろうが、今度は若い層にも手が出せそうなリアルクローズを密かに狙っている俺としては、ありがたい内容だ。


―――『昔から引っ込み思案で、僕の後ろにばかり隠れているような子でした。
僕には可愛い妹みたいな子で。まぁ生まれたときからお隣さんだったからほとんど兄妹といっても過言ではないですね。
昔から器用な子でね、特に図工や美術……ものを創作する力に秀でていた。
驚くような配色を組み合わせて絵を描いたり、時にはピカソ級のわけ分からないオブジェを造ったり―――と…
素人目には斬新過ぎてついていけないところがありましたが、小学生のときからその手の業界からの評価は高かったと思います』


―――『天才肌だったんですね』


―――『ええ、間違いなく彼女には才能があったと思います』



これは本当のことだ。
正直紫乃の造りだすものたちは俺にはよく分からなかったが、それでもそれが凄いものだと言う事は
本能的に分かっていた。


そう、あいつは―――



天才なんだ。






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