ショコラ
計画では地元で就職!

実家に甘えてOL生活を送りながら、ご褒美に大好きな歌舞伎に通うのが想い描いていた未来!

…だったのに実際はいくつもの企業を面接したがことごとく失敗。

バイト生活のフリーターもなんだし大学時代に保険で取った教員免許で今、なんとか生活してる。

でも、これまた うまく行かず過疎化が進んだ山奥の中学校へ赴任…。

これじゃ東京に日帰りで遊びに行くどこじゃない!

友達に会えないし遊び場なんて どこにもない。
買い物するにも数少ないバスの本数に合わせないといけないので本当に大変!

初めての1人暮らしは家族の有り難みがわかり両親に感謝する毎日。

しかし初めて教員になり教えることの喜び、楽しさ、嬉しさ、戸惑い沢山のことを学んだ。

これからも子供達を始め先輩の先生方、田舎の人達から学ぶことばかりだろう。

教師としても人間としても日々、勉強することばかりである。

私は1人の大人、1人の教員として子供達をサポートしなくては!

溶けるように熱い夏を乗り越え、卒業まで あと5ヶ月。
季節は間もなく長く厳しい冬が始まる。

「ねぇ結城(ゆうき)先生、この公式で合ってるかな?」

彼は大きなアーモンド型一重で黒目が大きく鼻がすっと高く、そして口角が上がり あごはスッキリな、たぶん王子様系ショコラ一重と呼ぶのだろうか。

甘い表情で人を引きつける魅力を兼ね備えた顔。

「そう中2で習う連立方程式の応用で合ってるわ草苅君」

「苗字で呼ばれるの慣れてないから違和感を覚える。
オレを苗字で呼ぶの結城先生だけ」

「だって祐希(ゆうき)君って変な感じでさ」

「オレが結城先生の婿養子になったら結城 祐希になるね」

私は一回りも離れた男の子に やわらかい笑顔で

「そうね」

と返した。

全校生徒たったの5人。
しかも彼しか男子はいない。

熱心に勉強に取り組む姿は王子から一転してワイルドでガラッと男っぽい一重の目つきになりキリッとする。
このビター&スイートのショコラ一重のギャップにハートがとろけるのだろうか。

彼は この学校で王子的存在である。

しかし彼は唯一の男子生徒でもあるが今年、ただ1人の受験生のため女子達が日に日に切なそうな表情を見せる。

「やったー!やっと解けた」

笑うと まだ女の子っぽい幼さが残る笑顔を見せる。

私は この笑顔を見るたび気持ちが和む。

希望校に合格したら とびっきりの甘すぎる笑顔を見せてくれるのだろうか。

そのためなら理数系が苦手な彼のために夏休み以降ギリギリまで下校時間に付き合ってしまう自分がいた。

私は歌舞伎俳優のような涼しげな切れ長の瞳が好きなのに…。

いいや、彼に限ったことじゃない。

他の女子生徒であろうと同じ行動をとるであろう。

「そろそろ時間ね」

「もう、そんな時間になったんだ。
今の問題にかなりの時間、費やした〜」

「今日は ここまでにしましょうか」

「はーい」

映画のワンシーンに出てきそうな木造の校舎は歩くたびにキシキシと音がして、そこがまた風情がある。

彼は昇降口に、私は職員室に向かおうと教室を出ると別々に歩むのだが

「先生、オレ 受験が迫ってきたなって思うと不安で不安で仕方がないんだ」

いつもは明るく元気いっぱいの挨拶で別れるが

「明日、土曜日 先生の家で勉強 教えてもらっても いいですか?」

彼は小動物のような うるうるな瞳で湿っぽい声質で訴える。
彼はテストが近づく度 いつも私におねだりする。

「ええ、もちろんよ」

と いつもの返事をした。

***

この地域は空き家が多く 家を遊ばせるよりは良いと自治体のご好意で古民家 一軒家を格安で利用させてもらってる。

女1人暮らしには立派過ぎる物件。

なので掃除が大変!

今まで サボってたので大掃除ばりに時間がかかった。

たまには人を呼ぶのも いいのかも。

「こんにちは」

休む暇もなく待ちに待った お客さんがやって来た。

ぱたぱたと足音を鳴らし玄関へ急ぐが

…っあれ

低音で明瞭で深みがある声

男性の声だった。

彼は まだ声変わりをしていない。

近所の お父さんが また野菜を届けてくれたのかも。

と心当りを探るが先ほどの声の主の検討がつかない。

この家にはチャイムがない。
あったとしても お客さんが勝手に上がり込んでくる。

鍵も壊れているため お隣のお母さんが洗濯物を取り込んでくれるので急な雨の心配もしたことない。

不用心という言葉はこの田舎に存在しない。

「すいません、いませんか?」

こんな言葉、田舎の人が発するはずがない。

「はーい、います。ちょっと待って下さい」

なんかのセールスじゃないよね。

身構えながら玄関に手を伸ばし、ゆっくり引き戸を開ける。

10センチほど開け 隙間から覗くと…

……うそ
なんで……

思いがけない人だった。

懐かしい顔に緊張の糸が切れ、力いっぱいに玄関を開けた。

「結城、久しぶり」

「…お久しぶりです」

ヤバい

目が色っぽくセクシーなのに はにかむと目に憂いと怒りを含んだ さまざまな表情にひきこまれるショコラ一重

歌舞伎系一重に近く私は このショコラ一重に弱い。

「ずっとさ、SNSが未読のままだったから、何かあったんじゃないかと思ったが元気そうで良かった」

「…夜や土日になると繋がらないことが多くて…。
田舎は まだスマホが不便なんです」

「あー、そうだったんだ」

先輩が私を心配して わざわざ車を運転して会いに来てくれた。

そう解釈していいんだよね!
顔が熱くなる。

「どうぞ、上がって下さい」

「いや、せっかく天気もいいしドライブなんて どう?」

「…ドライブ」

「この近くに まだ行ったことのない遺跡現場があるからさ」

がくっ!

デートだと期待したら…。

相変わらず考古学オタクだわ。


大学入学した頃

『うちの発掘サークルに入らない?』

と秘密兵器のショコラ一重で誘われたら

『はいっ!』

って即答しちゃうじゃん。

理数バカの私は意外と良い刺激になり無我夢中で採掘に没頭してたっけ…。

そして憧れの先輩とショコラのように とろけるような甘〜い恋

…を期待したが何もなく大学生活は終わった。

サークルメンバーとは、それぞれの道を進みSNSで頻繁に連絡を取り合っている。

…っ待てよ。
私、スッピンだし黒ぶちの大きなメガネにジャージ姿。

田舎じゃこれが普通のスタイルだけど…。

近所のお母さんからの間違えて小さいサイズを買ってしまい交換するのも 面倒ってことで頂き物のモンペ、すっごい愛用してるし。

ひえ〜
どうしよう!

いやいや
そんなことじゃない!

「ごめんなさい、これから教え子が家に来るんです」

「教え子?」

「はい、今年 受験で数学が苦手なので教えて欲しいってことで…」

「…そっか」

せっかく先輩が来てくれたけど…

「…う〜ん、せっかく来たし 何時間 待ってもかまわないから夜景を見ながら どっか飯でも どお?」

!!!
先輩から嬉しいお誘いが〜。

「はい!先輩がよければ!

上がって、何もないけどTVでも見てて お待ちください」

「おじゃまします。
すっごい広い家なんだね」

先輩がリビングまでの空部屋の数に驚く。

「そうなんですよぉ。
明日も お休みなら今夜、泊まりせんか?」

何も考えず へらへら笑いながら話すと

「結城、それ どういう意味か わかってる?」

「…へ」

私と先輩には かなりの温度差がある。

たまらず私の足が止まると先輩も2、3歩進んだところで止まる。

冷静になって考える。

先輩が会いに来てくれた喜びで我を忘れてたが…。

「結城… オレ…」

なんか… いい雰囲気

もしや これは!

「…すいません、トイレに行ってきます。
真っ直ぐ突き当たりがリビングなんで座って待ってて下さい」

1階ではなく2階へと階段を一気にかけ上がる。

2階は物置小屋と化している。

急いで フードにウサギ耳が付いたピンクの もこもこルームワンピに着替えた。

おしゃれとか考えてる余裕はない。

とにかくジャージはイヤだ!

と私の乙女心が叫ぶ。

「お待たせしました」

「いや待ってない…。
ずいぶん かわいらしい格好になったな」

「そうですか?」

笑ってゴマかすしかない。

「結城、それでさっきのつづ…」

と そこへ

「こんにちは〜」

と かわいい声が我が家に響く。

「は〜い、どうぞ上がって」

「おじゃましまーす」

軽やかな足音がリビングに近づき

「…あれ」

パーカーにジーンズ姿とラフな服装をした彼が困惑した表情を見せる。

「先生、彼氏と一緒に住んでたんだ…」

どうやら彼には先輩が彼氏に映ったようだ。

「っ違うの、たまたま大学の時の先輩が遊びに来てくれたの」

「ふ〜ん、お兄さん 彼氏じゃないんですね」

「今はね…」

ええ〜!
今は 今はって!!

「草苅君も座って。
お茶入れるから待ってて」

「は〜い」

憧れの先輩と もしかしたら両想いになれるかも…。

って期待が大きくてお茶を注ぐ手が震える。

先輩と彼は何やら お話をしている。

「結局は彼氏じゃないんですね」

「ずいぶん、彼氏じゃないを強調するな」

「彼氏じゃないならオレにもチャンスがあるってことですよね」

「オレ?
女の子なら ちゃんと私と言いなさい」

「女に間違えられるのコンプレックスなんです。
オレが男だって証拠見せましょうか?」

「いや、見たくもない」

2人が親しげに和むとこ間に割って入る。

「お待たせしました。
先輩はブラックでしたよね」

「どうも」

「草苅君はショコラ ショーでいいかしら」

「うん、ミルクたっぷりで甘〜いショコラの香りがしてさ、前に頂たとき、優しい味でおいしかった」

「そのメーカー、私もお気に入りなの。
草苅君なら気に入ってくれると思ってたわ」

私と彼は好みが合う。

「確か少年は受験生って伺ったけど」

「はい、そーなんですがオレ数学と精神が弱くて…。
それで結城先生の力を借りに来たんです」

「オレも社会と国語の教員免許を持ってるんだ。
たまには数学以外の受験勉強もしないとな」

「あー、結構です。
地理と歴史はオレの趣味みないなもんだし、漢検2級持ってるし」

「草苅君、全国模擬試験でいつも上位なんだけど数学だけが平均点以下なのよね」

「…ぐぅ」

…この2人、火花が散ってる?

先輩が苦いコーヒーを一気に飲む。

私はブラックが飲めないので、大人だなぁと その姿を凝視する。

先輩が飲み干した後

「結城、トイレに案内してくれないか?」

「いいですよ」

「なぜ少年が答える!」

「だってオレの名前も祐希だもん」

「ったく、まぎらわしい!
後輩の結城にお願いしてるんだ」

「はい、案内します」

長い廊下を渡り…

「先輩、トイレ通り過ぎてます。
って、ええ!」

私の左手首を捕み階段下の空きスペースに引き込み…

私の右頬に優しい風が刺激したと思ったら…

もしや、これは…

心臓が激しい鼓動を刻む。

そう、紛れもなく あの壁ドン!である。

「結城、あーゆう歌舞伎にいそうな一重の顔 好きそうだよな」

「っは?」

「歌舞伎にいたら若!若様って呼ばれてそうだもんな。

あいつが来るから かわいい服に着替えたんだな」

芳ばしいコーヒーの香りが鼻にかかる。

さらに先輩を感じ どきどきがおさまらない。


どうやら先輩は一回りも離れた男の子にヤキモチを妬いてるみたい。


ふと、どこかからか視線を感じたので、先輩の一重の瞳から そらし、視線がした方を見ると…

一気に私の顔が赤くなる。

私の異変に気付いた先輩も私が見つめる先に視線を向けると…

彼が壁越しから微笑を浮かべながら こちらを見ていた。

きゃーー

見られたーー!
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