彼の手の中の私
「私は求めてばかりで、与えて貰ってばかり。それなのに与えたいと思った事が無いの。与えたいと思う事が好きだという気持ちなら、私は人を好きになった事が無いし、これからもきっとあなたがいる限り好きな人なんて出来ない」
「なんで俺がいると出来ないの?」
「……それは、だって…」
“きっと、あなた以上にあたしを愛してくれる人なんていないから”
その言葉を、私は黙って飲み込んだ。
結果、そういう事。
こんなに私を好きになってくれる人はきっとこの先いないのに、それなのにそんな彼に求める事しか出来ない私は、与える事の出来ない私はーー今後、他に与えたいと、彼の想いのように私も何も求めずただ応えたいと思えるような人なんて、絶対に出来る訳がないのだ。
つまりは、私はちゃんとした恋愛が出来ない人間という事。
甘えてばかりで応えられない、相手の想いを良いように利用して自分だけの満足しか見ていない、最低な人間だという事。
そんな人間に、私はなってしまった。
「…ごめん、ちょっとコーヒー切れたから買いに行ってくるよ」
いたたまれなくなった私は、マグカップをテーブルに置いて立ち上がる。すっかり冷え切ったコーヒーがまだたっぷり残っている。でもおかわりするよね、なんて事を言い訳にして、私はそのまま玄関へと向かった。