【壁ドン企画】彼との距離
彼が海外ボランティアに出発し、今日帰ってくると言っていた。
だから、その日を狙って上京してきたのだ。
私もこの日しかない。
明日からゼミ合宿なので、とんぼ返りする予定。
迎えにいけないことを理由に彼は日にちを変えるように言ってきたが、マンションまで一人で行けるとごり押しして約束を取り付けた。
田舎では考えられないほど本数がある電車を乗り継いで彼のマンションへたどり着く。
何度も訪れた、東京で一番よく来た場所だ。
でも、これで最後。



マンションを見上げると、よたよた階段を昇る男性を見つけて、走る。
彼の住むマンションは古くてエレベーターがない。
おそらく大きな荷物を抱えて階段を昇っているのだろう。荷物が少なく、身軽な私は急いで階段を駆け上がる。
好きなところはたくさん。

寝起きはひどくはねるくせ毛も、笑うとできるえくぼも、ちょっとおっさん臭いところも、包丁で指を切ったら大騒ぎするちょっと頼りないところも。あげたらキリがない。

好きだけど、もう、付いていけない。

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