私の好きな人。
「……ああはなりたくないよな」
「え?」

ぽつりと、上から落ちてきた声に思わず顔を上げた。

「いい歳して茶髪で清掃員?人生終わってるよな」

二人きりのエレベーターの中で、当然の事のように零す課長の言葉が誰のことを指しているかを想像するのは余りにも簡単。
けれど余りにも私の想いとかけ離れていて思わず黙ってしまう。

「今井、金曜暇か?」

次の声とほぼ同時、ポーンと軽い音がして扉が開いた。

「おはようございます。柳瀬課長」
「ああ田中。昨日の契約どうなった?」
「あの、それが……」
「は?仕事とれねー営業なんていらねーよ!さっさと辞めちまえ!」

いきなりの怒声に、ビクリと田中さんも私も肩を竦めた。
課長が赴任してきてから毎日こうだ。
皆すぐ部下を怒鳴りつける課長の機嫌を伺いながら仕事をしている。

課外では若手のイケメン課長と呼ばれているけれど、課内の私たちにとっては少し、いやかなり……厄介な鬼課長だ。
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