オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
8 念願の婚約式

希和side



3月上旬。

春の陽ざしが少しずつ差し込む陽気の中、

婚約披露パーティーを目前に、私は緊張のピークに達していた。


「希和」

「………」

「希和?」

「………」

「おいっ」

「あっ、はい!」


夕食の準備中、すぐ隣に彼が来た事さえ気付かず、

私は無心に鍋をかき混ぜていた。


「焦げてるぞ?」

「へ?あっ!ッ!!」

「おいっ、大丈夫か?!」


佃煮を作っていたのだが、煮汁がとうに無くなっていたようで、

なべ底が真っ黒に焦げ付いていた。

焦げた臭いを察知して、彼はキッチンへと来たようだ。


「申し訳ありません。すぐに作り直します」

「火傷は?怪我してんじゃないのか?」

「手は大丈夫です。ご心配お掛けしました」

「ん、気をつけろ。夕食はどうでもいいけど、怪我だけはするな」

「……はい」

「疲れているなら、外に食べに行ってもいいし。俺に気を遣うな、いいな?」

「…………はい」


黒ずんだ鍋を洗おうと水を溜めていると、


「少し漬けておけ。今日は食べに行こう」

「あ、でも……すぐに作り直しますので……」

「いいから」

「………はい」


彼の優しさだと分かっているんだけど、自分が情けない。

彼の言う“疲れ”なら、休めば済むことだもの。

でも、真実は違う。

彼の隣に立つという事が、どれほど重圧に耐えねばならないのか……

今は未知数なだけに恐怖でしかないのだから。

その恐怖に打ち勝つには………。


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