めぐりあい(仮)






「てめーに関係ねーよ」




「関係あります。あなたがそういう態度なら、俺は遠慮しませんから」




「は?何言ってんだ、お前」




なぜか2人は睨み合っていて。


あたしはやばいと思い、


朝陽の腕を引いた。





「朝陽、帰るよ」




「帰んのかよ?いいのか?何も言わないまま帰って…」




「いいの!もう、いいから帰るんだって」





きっと蓮哉とは、


もう会うことはないと思う。


あたしは誰の手も借りず、


1人で頑張るんだ。


ねぇ、蓮哉。


あたし、本当にあなたが


好きだったんだよ。





「ごめんね、蓮哉」





蓮哉は苛立っているのか、


自分の髪を掻いている。


そんな思いさせるために、


ここに来たんじゃない。





「でもこれだけは知っててほしい」




「何?」




「勘違いなんかじゃないよ」





空気を読んでか、


朝陽は先に階段を下りて行った。


あたしは最後を悟って、


言いたいことを言うことにした。


悠太郎のことは言わない。


妊娠のことも言わない。


だけど。





「この前蓮哉は、あたしの気持ちを勘違いだって言った」





好きだってことだけは。


知っていてほしい。


もう迷惑もかけない。


嫌な思いもさせない。





「でも勘違いなんかじゃない。本気で蓮哉を想ってる」




「妃名…」





あなたに、名前を呼ばれる度、


嬉しくて仕方なかった。


もっと呼んでほしい。


そう思ったこともあった。






「だけどもう迷惑かけたり、こうやって待ったりもしない」






あなたと過ごしたたくさんの日々が、


あたしの何よりの楽しみであり、


幸せだった。


悠太郎しかいない。


そう思っていたあたしを変えてくれたのは、


間違いなく蓮哉だった。





「今までたくさんありがとう」





今日で、最後。


蓮哉に会うのは、


最後にするから。






「ばいばい」





とびきりの笑顔で言った。


あなたの頭に、


どうか笑顔のあたしが


残りますように。


いつか思い出す時、


笑顔のあたしが出てきますように。






「吉川」





階段を下りて、


あたしは朝陽に制服を返した。





「送るって」




「いい。いらない」





自転車を押しながら、


後を付けて来る朝陽。





「1人じゃ危ないって」




「もうほっといて」




「ほっとけねーって!待てよ、吉川」




「着いて来たら、絶交だからね」






そう言うと、


足音が聞こえなくなり。


代わりに、気を付けろと


大きな声が聞こえた。





「恥ずかしいってば」





1人で歩きながら、


もう終わったんだなと


寂しくなる。


ばいばい、なんて


言うんじゃなかった。


一気に後悔して、


落ち込んだ。


だけど。





「これでよかったんだよね」





気持ちも伝えられた。


おめでとうも言えた。


これ以上、何も望むことはない。





「蓮哉……」





幸せになれますように。


蓮哉が笑っていられますように。


いつかまた、


笑顔で会えたら。


そしたらまた、


1からやり直せばいい。


もうあたしには、


この子しか残っていない。


お腹に手を当てながら誓う。


絶対幸せにしてみせる。


愛情をたっぷり注いで、


立派に育ててみせる。


だから頑張って。


元気で生まれて来てね。





「早く帰ろ…」





あたしにはまだまだやることがある。


うつつを抜かしている、


場合じゃないんだから。





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