私のことは、ほっといてください
「んー。なんでって」

翌日、会議後の廊下にて。私は思い切って新見君に昨夜の疑問をぶつけてみた。

新見君は、手にしていた書類をメガフォンみたいに丸めると、私の耳に当てた。

「ここだけの話。オレも読んでんだよね、アレ」

鼓膜を震わす彼のウィスパーボイスがくすぐったい。けど、それ以上にその言葉の内容に驚いた。

「うそっ……? 新見くんて、少女漫画読むの?」

「あー。今、バカにしたろ? 男が読んじゃ悪いかよ」

「ううん、ううん」

ブンブン首をふる。自分でも興奮しているのがわかる。一歩近づいて、彼の瞳を見つめた。

「うれしい! こんな近くに『ラブきゅん』読んでる人がいるなんて! だって、あれティーン誌でしょ? 友達にも読んでる子いなくて、どんなに感動しても語り合えなくて寂しかったんだぁ……」

「そうなんだ。じゃさ、今度じっくり『ラブきゅん』談義しようよ」

「ほんと? するする!」

思わずぴょんぴよん飛び跳ねる私を見て、新見君がクスッと笑う。

「すっげ嬉しそう。そんなに好き?」

「うん!」

「そっか。けど、ふたりだけの秘密にしない?」

「えっ?」

「やっぱオレ男だし。バレるとちょっと恥ずかしいな~みたいなのもあるし」

新見くんは、はにかむように言った。

< 4 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop