本当は怖い愛とロマンス
命があと残り僅かで死がそこまで来ているとわかっていても、俺の生活は変わらなかった。
ギターにも触れる事はなく、誰の声も俺の胸には響かない。
毎日、酒を飲み歩いては意識を失い、ソファで泥酔して眠る。
でも、一人きりの明け方に目が覚めると、俺の頬は涙で濡れている。
本当は死ぬのは恐いからだ。
何の未練もなく、消えてしまいたいと思っていても恐くてたまらないんだ。
そう、俺の中の意識が訴えていた。
携帯電話を見ても、着信履歴で埋め尽くされ、でも、その苦しみを誰かに打ち明け、気持ちを共有する事を俺は躊躇っていた。
このまま、俺の気持ちなど誰に気づかれる事もなく、俺は消えていけばいい。
誰の迷惑にもならず、その時がくれば、俺は姿を消す。
俺の頭の中では、ルーレットが回っていた。
赤と黒。
それは、生きたいと少なからず思う気持ちと死という諦め。
それが交錯する度に、耐えきれないほどの頭痛が襲う。
テーブルに乱暴に置かれていた医者から処方された薬を慌てて手の平に並べて、水も飲まずに飲み込んだ。
薬が効いてきたのかしばらくすると痛みが少し和らいでくる。
俺はふとゴミ箱に捨てた江理の電話番号を思い出し、ゴミ箱に入っていたクシャクシャになった紙を取り出し、電話をかけていた。

この時の俺はどうかしてた。


「もしもし、どちら様ですか?」

当然だ。
江里は俺の番号を知らない。
何も答えない俺に江里が何度か受話器越しに問いかけ、電話を切ろうとした瞬間、俺は言った。

「俺だ…」

「本木さん?」

江里はびっくりした声でそう聞いた。

「寂しくて、一人じゃ耐えられそうにない。死にたくない…」

俺は、今の気持ちの不安からか本音の言葉を続けていた。
そして、ふと一瞬で我に返ると、俺は江里の答えも聞かずに電話をすぐに切った。

何してんだ。
俺は。

そう心の中で呟くと、俺はまた再び目を閉じた。



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