本当は怖い愛とロマンス
抱きしめられている時、ズボンの中の携帯がずっと鳴っていた。
俺は孝之から体を離し、携帯電話の画面を見ると、登録していない番号だった。
その様子を見ていた孝之は、俺から携帯を奪いとると、その電話の相手に言い放つ。

「しつけえんだよ!こっちは今、取り込み中なんだよ!え?あんたの名前なんか知らねえけど、佳祐は今電話には出れねえから…」

俺は小声で誰だ?と孝之に聞いた。

孝之は受話器を耳から離すと、「江里とか言ってるけど…」と答える。

俺は、その名前を聞くと、携帯電話を孝之から乱暴に奪い返していた。
受話器から聞こえたのは確かに江里の声だった。

「すまない。今、友達の店に来てて…さっき電話にでたのは友達で、仕事の話なら…」

「違いますよ。たださっきは、何も話も出来ないまま帰ってしまったので、打ち合わせ終わったら、本木さんの事が気になってしまって…」

その言葉に俺の頭の中でルーレットが回りだす。
江里にどう言葉を返したらいいのか息詰まる。
そして、真横で俺の様子をじっと見ている孝之に対しての言葉さえも。
赤と黒の玉が交錯する度にどちらの玉を選択する事が今の俺にとっての最良の答えなのかわからなかった。

「本木さん…?」

「すまない。また、連絡する…」

そう言って、電話の通話の終了ボタンを押した。
俺は頭を抱えてため息をつきながら、椅子に腰をかける。

「佳祐…今の女って、まさか…」

「そんなんじゃねえよ。ただの仕事関係の女だよ。次のドラマの主題歌依頼してきた脚本家だよ。
家までストーカーみたいに追いかけてきたり、電話してきたり、本当しつこくてよ…俺も迷惑…」

そう言った俺をまた孝之は、抱きしめた。

「佳祐、俺がずっと傍にいるから。やっぱり、お前を1人になんかするんじゃなかった…いつまでもお前が心配だった意味が、今日、俺わかったんだ。気持ち悪いってお前が思ってても、迷惑な気持ちでも、やっぱり、俺、止められねぇよ。」

孝之が抱きしめる腕が少し強くなった。
頭の中のルーレットは周り続けたまま、俺は孝之の言葉にさえも何も答える事は出来なかった。
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