本当は怖い愛とロマンス
何時間経った時だろう。
ランプが消えて、機械と一緒にたくさんの管を遠された恵里奈が目の前で運ばれていく。
その後に神妙な面持ちで出て来た恵里奈の主治医はマスクを外すと、静かにこう呟いた。

「手術は成功しました。今のところ命に別状はありませんが、今回、あと1センチ刺された場所がずれていれば、彼女は助からなかった。ただでさえ、心臓の機能が今の時点で充分ではないのに、命があるのは奇跡に近いです。一刻も早く、予定していた移植の手術を行う事をお勧めします。」

そう言い残し、主治医は軽く会釈をすると、その場を立ち去った。

彼女が一時的にでも助かったと聞いた瞬間、安堵の表情と共に脱力感が身体中を襲った。
話を聞いていた西岡と谷垣も同じような気持ちだったのかベンチに一気に身体を預けたように座り込んでいた。

何時間か経った時に状態が安定し面会が許された。
酸素吸入器をつけながらベッドで眠る恵里奈を見た時、ベッドの横にある椅子に腰を下ろした俺は泣いていた。

気持ちが溢れ出して止まらなかった。

血塗れの彼女を見た時、全てを失った自分の未来を一瞬想像した。

あまりにも自分の気持ちを告げてからの彼女と一緒に過ごした穏やかな僅かな時間が、幸せだったからだろうか。

俺は彼女の手を握り、ポケットに入れっぱなしだったICレコーダーを取り出すと、スイッチを押した。

俺の作った歌が病室に響き渡る。

その歌は眠る彼女の姿を見た時、すぐに恵里奈の歌を作りたいと真っ先に思いついた。
歌詞の言葉の端々に彼女への気持ちが溢れていたからこそ、最初に聞かせたかったのだ。

歌が終わろうとした時だった。

病室のドアが開き、スーツ姿の男が2人入ってくる。

鋭い目つきで俺を見ると、胸元から見覚えのある黒い手帳を取り出し、2人のうちの1人の男がこう言った。

「本木さん、警察です。少しお伺いしたい事があるので、お時間よろしいですか?」
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