口の悪い、彼は。
「喜多村さんって小春ちゃんの会社の先輩だったのね。それに小春ちゃんがあのCLO×CLOで働いてるなんて!今まさに脂ののってる時計メーカーでしょ?知った時、驚いちゃった!」
「脂ののってる、なんて、誉めてくださってありがとうございます!私ずっと時計が好きで就職も決めたんです!喜多村さんと一緒の部署なのは本当に偶然なんですけど、面倒見いいし、仕事もできるし、信頼もされてるし、すごく素敵な先輩なんですよ」
「へぇ~知夏ちゃんってば、しっかり優良物件ゲットしてるのね!」
「本当ですよー」
私は会社の人たちが談笑している光景を眺める。
お姉ちゃんは今お色直しに行っていて、喜多村さんはいつの間にか会社の人たちのテーブルに移動してしまっている。
主役が動き回るの、あまり良くないんじゃないかって思うけど、それが喜多村さんらしいのかもしれない。
ちなみにやんやしている中には千尋の姿もある。
もちろん、みんなと一緒に騒いでるわけはなく、黙々と料理に手をつけたり、ワインを優雅に飲んでいる。
チャペルでの結婚式にもその姿があったけど、私が見ている限り、千尋はその時からずっと笑顔は見せてはいなかった。
今日の千尋は当たり前だけどツンツンした言葉も言っていないし、笑顔がなくても機嫌が悪いようには見えないからいいんだけど、こんな時くらい笑えばいいのになぁ、と思ってしまう。
大切なお姉ちゃんの結婚式だというのに、ふとした瞬間には千尋の姿を追っていて、結婚式や披露宴を楽しむ中でも、私の頭の中にはやっぱり千尋のことが住み着いていた。