口の悪い、彼は。
 

自分じゃない可能性が高くなってくると、それはそれで誰のことを言っているのか気になってしまう。

だって、本当の彼女は私のはずなのに。

かなり勝負になるけど、私は意を決して、他の人には聞こえないくらいの声で佐東さんにこそっと疑問を投げ掛ける。


「佐東さん、誰のことをおっしゃってるんですか?」

「え?誰のことって……高橋さん式場で新婦側にいた部長の彼女と話してただろ?」

「え?え?」


私が“部長の彼女”と話してた?


「前にさ、部長が美人な女と歩いてるところを見掛けたって、ここでみんなで話してたこと覚えてるか?あ、そう言えば喜多村も言ってたな」

「……」


その時の記憶が鮮明に蘇る。

千尋と付き合うようになる前、喜多村さんが楽しそうに話していた時のことだ。

……千尋が美人な女の人と腕を組んで、笑顔で歩いていたという話。


「その美人が式場にいたから、俺、すっごい驚いたんだよ。その場には部長はいるし、しかも高橋さんは高橋さんで仲良さそうに話してるし」


確かに私はお姉ちゃんのお友達や仕事仲間の人に挨拶に行ったけど……一体、誰のことを言ってるの?


「スタイルのいい、美人……?」

「そうそう。あの髪型、ベリーショートって言うんだっけ?あの髪型であの色気ってすげぇよなー」

「……!!」


「ベリーショート」という単語にドクン!と心臓が跳ねた。

 
< 151 / 253 >

この作品をシェア

pagetop