口の悪い、彼は。
 

「……千尋?何で」

「ったく。こんな時間まであいつといたのか?」

「あ、うん……」


私が美都さんとご飯に行っていたことを千尋が知っていたことに、私は少し驚いてしまった。

全然見向きもしなかったのに、気付いていたなんて。


「まぁいい。こっち来い」

「……ちょっと散歩したい」

「はぁ?」


千尋が眉間に皺を寄せて怪訝な表情を浮かべたのがわかったけど、私は怯まなかった。

今は……千尋の元に笑顔で飛び込める自信がない。

きっとそうしてしまえば、私は言っちゃいけないことを言ってしまいそうだ。


「お酒、飲みすぎちゃったから。頭冷やしてくる」

「……はぁ。ったく、仕方のねぇ女」

「……」

「ほら。行くんだろ」


また呆れられてしまったと思っていたのに、気付いたら千尋がすぐそばに立って、私を見下ろしていた。


「!……千尋も、行くの?」

「……俺も散歩だ」

「……」


そう言って私からふいっと目線をはずし、千尋は歩き出す。

その広い背中を見つめながら、鼻の奥がつんとした。

……ダメ。

やっぱりこういうところがすごく好き。

わかりにくいけど、千尋は優しいんだ。

わかりにくい言葉だけど“散歩に付き合ってくれる”と言ってくれた千尋に対して、私の胸がきゅんと締め付けられた。

 
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