口の悪い、彼は。
 

コーヒーが注ぎ終わり、私はコーヒーとあんみつ饅頭を2つ持ってまだまだツンツンモードの部長の席に歩みを進め始める。

周りからは『がんばれ!』というような視線が飛んでくる。

えぇ、頑張りますとも。

……“あの表情”を見るためなら、暴言が飛んでこようとも耐えてみせます。


「真野部長。お疲れ様です」

「あ?」


私の呼び掛けに高速タイピングしていた部長の指が止まり、ぎろりと鋭い目が私を向く。

おぉ。怖い。

でも私は怯まず、にこりと笑顔を部長に向ける。


「こちら、いただきものです。お疲れの時は甘いものが一番ですから。どうぞ」

「……あぁ。悪いな」


……見れた。今は私だけが独り占めできる真野部長の表情。

それは、返事をしてくれた後にふぅと小さく息をついた真野部長にほんのり浮かぶ、少し気の緩んだような穏やかな表情だ。

その表情を見れることが嬉しくて、つい私の顔も緩んでしまって胸がきゅんとなる。

私はみんなが部長にあんみつ饅頭を持って行きたがらない理由がわからなかった。

だってこんな貴重な表情を見せてくれるのに。

こんなにも穏やかになる部長の姿を見れる機会なんてそんなにないんだから、この役目が取り合いになっても不思議ではないはずだと私は思うのだ。

……まぁ、その分私が得できてるってことだから、いいんだけどね。

 
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