それが愛ならかまわない

 時刻は午後十時、夜になっても眩い光に満ち溢れたネオン街の隅にあるケーキ屋のすぐ横。バイトの休憩時間に強引に呼び出された為、私の機嫌は最悪だった。


 そもそも普段の私はこんな感じ悪い受け答えなんかしない。キャラが違う。それでも饒舌に言葉を紡ぐ目の前の相手はそこに気づかない。
 半袖の制服から伸びた腕が夜風に撫でられてどんどん冷えていく。


「だから、会社はもう辞めていいよ。こんな風にバイトだってする必要ない。母さんがうちの家に入る以上一年は花嫁修業してもらわないといけないって言うから……」


 『辞めていい』なんて薄気味悪いセリフを嬉しそうな顔で述べるのは、一応私の恋人だった男。
 元々は取引先の会社員だった。いつの間にか独立して事業を起こし、それを自慢に生きている。ルックスは良かったし向上心があって仕事が出来るタイプは好きなので、熱烈なアピールに負けた形でとりあえず付き合ってみたけれど、とにかく性格と価値観が合わなかった。こればっかりは私の男を見る目がなかったと言うしかない。


「ねえ私、浅利さんと別れたはずなんだけど」


 半年ちょっとしかない付き合いの中で私は彼にプロポーズされた覚えはない。そして恋人としての関係は二週間前にきっちり終わらせたはずだ。
 なのになんで会社を辞めるだの花嫁修業だの、急にあさっての方向へ話が飛んでいるんだろう。そもそもバイト中の職場まで押しかけて来るなんて迷惑極まりない。つくづく自分の男運のなさを呪いたくなる。

< 15 / 290 >

この作品をシェア

pagetop