風が、吹いた



「千晶はやりたいことがあるんだ?」




両手を床について、足を前に投げ出すと、先輩はいいなぁと呟いた。



「先輩は、ないんですか?」




緊張した空気が緩んだ気がして、お茶を置くと、おにぎりのテープをピリピリと剥がす。




「やりたいことはあっても、できるかどうかは別、でしょ?」




私だって、その言葉には大いに同意する。




「俺は、そうしたもの作っても、どうせ、できないっていうのが確実だから、作らないし考えないんだ。」



だから、と続けて、私をちらっと見る。




「今だけは、自分のやりたいこと、やるんだ」



その視線に捕らえられて、けたたましく胸が鳴った。




「へ…へぇ…」



耐えることなんて出来ずに、不自然なほど目を逸らす。




「…じゃあ先輩、受験勉強しなくて大丈夫なんですか?こんなところで油売ってたら駄目なんじゃないですか?」




椎名先輩は、私の態度に気づいた様子もなく。




「大丈夫」




とあっさりと答えた。




そこへ―




「椎名先輩見つけた!」




知らない女子の声が響く。



「ちっ」




舌打ちしたのは誰だろう。



恐る恐る隣を見ると、見たこともないような彼の顔があった。
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