風が、吹いた



空になったカップを、ちょっと残念に思いながら、見つめた。




「そっか。俺、ちょっと遅くなるかもしれないんだ。始まりは18時だったっけ」



うんと、頷いてみせる。




「他のバイトは皆明日までで、辞めるんだ」




飲み終わったカップを2つ、シンクに片付けるため、立ち上がろうとした時、先輩がそう言った。




「急、…ですね?」




慌てて、座りなおす。



「そんなことないよ。前から決めてたんだ。暫く働かなくてもいいくらい、貯まったし」




なんでもないことのように言うから、私が感じた、理由のない不安もすぐに、落ち着いた。




「そうだったんですか」




相槌を打ってから、気を取り直して、カップを片付ける。




「だから、それ関係で、色々ごたごたしててね。それが終わり次第、行くから。間に合わなかったら、先食べてていいからね」




ごちそうさま、そう言うと、彼も立ち上がった。
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