風が、吹いた
「……ごめんて。」
黙々と自転車を漕ぐ私の横に並んで、先輩が謝る。
食べ物の事しか考えてないように見られたのが恥ずかしくて、怒るフリをするしかない私。
本当はもう許してあげても良いんだけど、むしろ怒ってる自体おかしいんだけど、引き際がわからない。
「腹ごなしに、散歩しよっか」
「………」
先輩の提案に、引き際のボーダーを持ってくことにした。
「ーはい。」
そんな私を全部お見通しといわんばかりに、彼はまた笑った。
月が、きれいに見える。
森の端に、自転車を停めて、どちらからともなく手を繋いで、ぷらぷらと歩き出す。
冬の空気は澄んでいるから、星も月も、はっきりと見えた。
でも繋がる手からは、彼が何を考えているのかは、私には伝わらない。
「今日、佐伯さん、張り切りすぎだったよね。」
くっくっと笑いながら、椎名先輩が言った。
「本人も恥ずかしそうにしてましたよ。」
私もつられてるように笑って応える。