風が、吹いた









ガンッ


残された浅尾は、苛立ちを紛らわすかのように、壁を蹴った。




「………なんで、言ってねーんだよ」




階段の途中、今しがた怒りをぶつけた壁に、背中を預ける。



言いようのない思いを、溜息に託す。




「あ、おはよー、浅尾じゃん」




声のした方へ、目だけ動かすと、吉井が階段を上ってくるところだった。





「…はよ」




身体中にある苛々を取り繕うこともできないまま、挨拶だけ返した。




「なんか、あった?」




そんな浅尾を見て、傍に来た吉井が、眉を片方だけ上げて、面白そうに尋ねる。



「…なぁ、お前さ、倉本の相談、よくのってるだろ?」




吉井の顔に、さっと緊張が走った。




「くらもっちゃんのことで、何かあったの?」
< 266 / 599 >

この作品をシェア

pagetop