風が、吹いた
「どうして?同じ学校なんでしょ?話しかければいいのに。」
当然の意見だと思った。自分では。
だが、次の瞬間、自己嫌悪に陥った。
「……彼女を傷つけてしまいますから」
辛そうに笑った彼の顔を、今でも覚えている。
それは、見ているこっちが、泣きそうになるのを堪えなければならないほどで。
そして、それくらいその女の子の事が、大切なのだと、思わせた。
芽生えた、親心、というべきか、最近どうもこういう子たちを放っておくことが、自分にはできない。
それ位、年を取ったということか。
軽く笑みながら、僕は一度目を伏せて。
「いいよ」
と、言ってしまった。
目の前の彼は、半ば諦めながら、僕のところに来たそうだから。
僕がこんなにあっさりと認めてくれるとは思わなかったらしく。
目を見開いて、固まってしまった。
が、次の瞬間破顔して、感謝の言葉を連発した。
ま、いいだろう。世知辛い世の中、たまには、こんなことがあっても、ね。
なんて自らの行動を達観しながら、彼につられて、笑った。
相応の家賃を払おうとする彼に、僕は頑として譲らず、破格の値段にしてあげた。
少しくらい、応援というか、したいもんなんだよ。おじさんていうのは。
なんて、口には出さないけどね。