風が、吹いた




「息子さん、もう受験なんですね。」




時間が経つのは早いものだな、と他人事のように感じた。




「そうなんだよ。来年すぐにセンター試験があるし、家に帰っても家内と息子がピリピリしていて、どうにも居心地が悪くてね」



疲れが取れないよ、なんて、田邊は肩を竦ませる。





「…センター試験、ですか。じゃ、日本の大学なんですね」




無意識のうちに呟いた言葉に、田邊がぎょっとする。




「当たり前だよ。外国なんて受けるわけないよ。」





彼の反応に、自分が心の声を、口にだしてしまったことに気づく。



「すみません…ちょっと、知り合いのことを、思い出しまして。こっちの話です。」



慌てて、謝罪した。



「へぇ。その知り合いの子、外国に行ったの?」



片眉を上げて、机の上で手を組みながら、田邊が興味深そうに尋ねる。



「えぇ、たぶん」



「多分って。。。」




彼女の曖昧な言葉に、田邊は、今度は首を捻った。



窓から見える飛行機雲を目で辿りながら、独り言のように彼女は呟く。




「…勝手にセンター試験受けてるとばかり思い込んでたから、気づかなかったんです。」
< 326 / 599 >

この作品をシェア

pagetop