風が、吹いた




まさか。



思わず前かがみになって、最初のページに戻る。



適当に目を通しただけで、きちんと読まなかった文章の中から、当事者の名前を探す。




「嘘だろ。」




指で辿った名前を見て、体が強張るのがわかった。



それが、どういう感情からくるものなのかは、わからなかった。




「私も、最初、そう思った。」




呆然とする、浅尾を見つめながら、吉井が同意するように頷く。




「お待たせしました。ホットコーヒーでございます。」




店員が、運んできたカップとソーサー、ミルクと砂糖を、テーブルにそれぞれ置いて踵を返すのを、黙って待った。




「…でも、苗字が違う」




沈黙を破って、浅尾が呟く。




「だけど、その写真は彼よ」




大分、大人っぽくなったけど、と付け足して、吉井が遠くを見るように窓の外に視線を向けた。




「確かに、似てる」




浅尾は頷いて、もう一度、雑誌に目を落とした。




「こんなところに居やがったのか」




やがて、苦々しく呟いた。
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