風が、吹いた



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「あれ、結局訊けたんですか?」




彼女の後ろ姿を見送ってカウンターに戻ると、樋口がそそっと近くにやってきて、本棚を指差した。



カフェの中に陳列してある本は料理やお菓子作りに関係するものばかりで、その中にひとつだけ混じったカラフルな厚ぼったい雑誌は、やけに目立って、居心地が悪そうに見えた。




「ここで一緒に働いてた人に教えてあげてよって、持ってきたお客さんに言われてませんでしたっけ。」




盗み聞きするつもりはなかったんですけど、とすまなそうに言った。



そんな彼に苦笑しながらー



「もう、いいんだよ」




と、自分に言い聞かせるように、呟いた。
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