風が、吹いた

シャラシャラと流れるせせらぎの音。



雪のように降る桜の花びら。



暖かい春の陽射し。



一枚、また一枚と、彼女の髪や制服、腕に、桜が落ちる。



自分を取り巻く、静かで穏やかな空気に、荒んでいた気持ちが、落ち着いていくように感じた。



と。



見つめる先の彼女の長い睫毛から、きらりと光るものが揺れる。




泣いてるのか?




一瞬躊躇したものの、自分で開けた彼女との距離を、そっと縮める。



少し垂れた眉が、苦しそうに見えた。



ころがり落ちようとする一粒の涙が、彼女の頬に痕をつけてしまったら。



起きて、それを見た彼女は、さらに悲しくなるかもしれない。



夢のことを、現実にまで、引っ張る必要はないから。


起こさないように慎重に、優しく、彼女の涙を指の腹で掬った。



表情が、微かに和らぐ。




「…ん」




彼女の気づいたような声。
< 448 / 599 >

この作品をシェア

pagetop