風が、吹いた
守りたいものはひとつだけ







そろそろ冬至を迎える頃。


日が沈むのが早くなり、寒さも本格的になってきた。


数ヶ月前に行われた森の主催するパーティーでの光景が、心を揺らしている。



胸が疼く。



ぼんやりと思考を彷徨わせているとドアをノックする音がした。




「入れ」




椅子に深く座って反対方向の窓に映し出される夜景を眺めたまま、返事をした。



「失礼致します」




沢木とは違う声。




「お前か。お前が来たということは…」




思わず、椅子を回転させて正面を向いた。




「はい。指示されたことの準備が整いました」




目の前の相手が、恭しくお辞儀した。




「…意外と早かったな。もう少しかかるものかと思っていた。年内にはまず無理だろうと考えていたのに。いや、よくやった。脱帽だ」




立ち上がって、握手を求めた。




「お褒めに預かり、光栄です」




がちりと、握り合う手と手。




「あとは、崩壊するのみ、です。」




にやりと男が笑った。




「父に、連絡しよう。」




「そうですね。リークする時期がわかったら、ご連絡ください。年内に済ませて、私は北欧辺りにドロンします。」




へぇ、と呟き、笑い返す。



「冬からまた冬に?また、どうして北欧なんて」




「ただ単に行ってみたいからです」




一仕事終えた男の表情は、晴れ晴れとしている。



労わりの言葉をかけ、別れの挨拶を交わすと、彼は去って行った。

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