風が、吹いた
「…お前か…。ワシの身代わりは、感情的になっている老人の役を、うまくやっているそうだの。」




先程まで見ていた映像を思い浮かべ、さもつまらなさそうに老人は呟いた。




「はい。今事情聴取を受けております。手筈は整えてありますから、万事滞りなく済むでしょう。」




そう答える男から目を逸らして、もう一度窓の外を見遣った。




「ふん。嘉納は実に愚かな男だ。救いようがない。こんな見え透いたことでワシを覆せるとでも思ったか。…甘く見られたものだわい。」




表情を固くし、忌々しそうに吐き捨ててから、後ろで手を組み、すぐにふっと頬を緩ませる。




「しかし、孝一は違う。あれはさすがというべきじゃな。あれの手が入った途端、物事は急展開を見せ、ワシの見識を少し狂わせた。」




但し、と続ける。




「今回のことは、少々腹が立つ。二度とこんなことがないよう、少し痛い思いをしてもらわないとならんな。」




その言葉に、直立不動の男はにこりともせず。



「その件に置かれましては、全て神林に一任してあります。」




抑揚のない、氷のような声を発した。
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