風が、吹いた



「…それじゃ、お前はいつまで経っても…」




浅尾が否定的に何かを言いかけるがー




「いいの。」




私のきっぱりとした物言いに、彼は途中でやめて、強い視線だけを向けてくる。



「いつ、先輩が帰ってきてもいいように、私、守ってたいの。」




確かめるように、自分の両手を見つめた。




「捨てないで、忘れないで、いたいの。いつか、逢える日まで」




「…じゃー、倉本のことは、誰が守るんだよ」




哀しげに、真剣に問う彼に、私は言った。




「左手は心臓に近いから、危険だけど…守りたいものは強くて、時々自分を守ってくれる盾にもなるから…だから大丈夫。」




Vサインをしてみた。




「…馬鹿か?お前。心臓はど真ん中だろうが。」




浅尾が、溜め息と一緒に呆れたように言った。





「あれ、そうだっけ…?でも、いいんだよ。利き手と反対の手は無防備なんだもん」




口を尖らせると。




「とんだ秀才だな。」




浅尾が馬鹿にしたように笑った。




「…だから、ごめんなさい」




謝ると、彼は少しだけ表情を真剣なものに戻して。



「千晶と同じで、俺も結構しつこいよ。直ぐには諦められそうにない」




眉を下げて微笑んだ。



そして、困惑している私をそこままに、ひらひらと手を振って、彼は屋上を出て行った。

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