風が、吹いた

あの頃。



寂しいという感情は、とっくに捨てきったと思っていた。



だけど、貴方に出会ってから、私の調子は狂わされてばかりで。



むくむくと沸き起こる正体不明の感情に、惑わされて、苛々して。



そして気づかされて。



泣いていい場所が、私に無かったこと。



笑うことすら、忘れていたこと。



そんな自分を許してあげられないこと。



何よりも。



貴方を目で追ってしまう自分を否定していたこと。



好きという感情は、自分の中で、あってはいけないものだったから。





だけど貴方は。



人と関わることを、避けてきた私に。



自分の中に籠もって、外を見ることの無かった私に。



世界をくれた。



きれいな世界を、私に教えてくれた。



あんなに。



誰かを必要だと思ったことも、



誰かを愛してると感じたことも、



傍に居たいと強く願ったことも、



全部。



初めてだった。



モノクロだった世界に、



少しずつ、色が着いた。
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