【短編】甘い香り
「…もぉ、意味分かんない」

水道の蛇口をいっぱいいっぱいに開け、溢れる程力強く流れる水を、顔に当てた。

冷たい水に、頭が覚める。

――隣で、手を洗っている姿が見えた。

ちらっと振り向くと、榊原さんが居た。

「…綺麗」

思わず呟いてしまった。

榊原さんの色白な手や、きめ細かい美しい肌…全てが、綺麗だった。

「――叶わないよ」

気を緩めると、今にも泣きそうな顔を…ギュッと水に押し付けて流れる涙を隠した。
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