狂気の王と永遠の愛(接吻)を・センスイ編収録

もどかしい距離


三時限目が始まり、また用意された椅子に向かうアオイ。


そしてすぐにアランの声がかかった。


「その足…あとで私にみせてくれるね?」


やはり気づかれていた。スカートギリギリに見え隠れする真っ白な包帯に、座る場所が別なアオイはどうみても不自然だったからだろう。


「いえ、もう何とも…」


言いかけたアオイだが…


「授業が始まりました。さぁ、アオイさんこちらへどうぞ」


やや強く背を押され、導くように手を引いたのはやはりセンスイだった。


「…はい、センスイ先生」


(センスイ先生…この人には嘘がつけない気がするのはなぜ?)


彼の直感が鋭いのか、何かを知っているのか…アオイの心には小さな疑問が残っている。


「……」


少しの後ろめたさを感じながらアランを振り返るが…彼の視線はアオイではなくセンスイへと向けられていた―――



それからのアオイは幸い、たびたびシュウやミキが構いに声をかけてくれるため暇にならずに済んでいた。
そして…


「アオイ、君のために点てたお茶だ。気に入ってもらえたら嬉しい」


頭上から声がかかり、見上げた先には自称・アランの幾分ほころんだ優しい顔がある。


(アラン先生…よかった、あまり機嫌を損ねてはいないみたい…)


ほっと胸をなでおろし、アオイは笑顔で応える。


「ありがとうございます、アラン先生」


差し出された茶碗を両手で受け取ると二人の指先が触れ合う。


「……」


それをじっと見つめているアラン。
まるでわずかな指先から流れてくるアオイのぬくもりが愛しくてたまらないというように、彼の白く繊細な指は…そっと彼女の手ごと包み込んでいった。


「あの、アラン先生…?」


互いに茶碗を取り合うようなかたちになってしまい、誰かに見られたら…と心配し、慌て始めるアオイ。



「目と鼻の先にアオイがいるというのに…その熱が感じられないというのが酷くもどかしくてね」



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