狂気の王と永遠の愛(接吻)を・センスイ編収録

センスイの心

(…学園…?)


すでに閉館している学園はとても静かで、どこまでも暗闇に染まっている。


「静かなところで話がしたかったものですから」


一度アオイを腕の中からおろしたセンスイは、どこからともなく取り出した鍵束でいくつもの扉を開け、保健室へと足を踏み入れた。


明かりが灯されると互いの表情がよく見え、照らされた空間が二人だけのものだと言わんばかりに華やいでいく。


「アオイさんはあたたかいミルクでよろしいですか?」


「あ、はい」


短い昼の時間、アオイの手元にあったものを確認していたセンスイ。彼は奥にある隠し棚から保冷効果のある銀造りの二重構造の缶を取り出し、鍋にあけかえ温め始めた。さらにカップをふたつ用意して、一度戻ってくる。

彼の動作をじっと見つめていたアオイだが、ふと足のしびれを感じ…視線を下げた。


「…?」


「…どうなさいました?」


「いえ、何だか両足に違和感が…」


「靴を脱いでそこにお座りください」


アオイは頷くとベッドに腰掛け、今朝のようにセンスイが片膝をついてアオイの目の前にかがんだ。


「失礼します」


センスイはアオイのドレッシーなワンピースをたくし上げ、まさか…と膝の状態を確かめようと試みた。


「…ふむ、原因はこれですね」


笑いを含んだセンスイの声にアオイが"?"と己の膝を覗き見る。


「あ…」


センスイの手にあるものを目にしたアオイの頬は赤くなり、クスリと笑みをこぼした。


「これは…何の布です?」


「すっかり忘れていました。湯殿に入る時、濡れないようにってカイが巻いてくれたものです」


「カイ?あぁ…先程の元気な少年ですね」


センスイはさほど気にした様子もなく、さらりとカイの事を"元気な少年"と表現している。


「どうやらきつく縛られていたようですね。足先が冷たくなっています」


巻いていた布をすべて取り終えたセンスイが手のひらで足の指先をあたためようと、両手で包んでくれた。


「あの、先生…そこまでしていただくわけには…っ…」


恥ずかしさのあまり膝を折って身をよじるアオイだが、センスイは立ち上がり、そっとその体を抱きしめた。



「…逃げないで…」



「貴方が私を選んでくださった事…とても嬉しく思っています」



「しかし…」



「アオイさんの中にいるアラン先生…いいえ、キュリオ殿の存在が…」



「…私を嫉妬に狂わせる…」



「正直に言えば、先程キュリオ殿をお見かけした時…」



「貴方の口から彼にさよならを告げて欲しかったんです」




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