拾った子犬(系男子)は身元不明
「ホンマに助かりました。ありがとうございました。」


気を取り直して、にっこり笑う夏樹君に、もう不思議寝癖はついていない。


「いいえ。ただ、泊めただけだし。」


「パスタもごちそうさまでした。」


「冷凍をチンしただけだし。」


「パンもありがとうございました。」


「焼いただけだけどね。」


ホントに、可愛げない。自分でも自覚している。


夏樹君のブレザー姿に動揺しているとはいえ、あんまりだと自分でも思う。


「じゃあ、オレ、もう出ますね。」


時計を見れば、もう8時前だ。そろそろ出ても良い頃だろう。


「あ、ちょっと待って。」


私は、ごそごそと鞄をあさった。


あ、あった、あった。


鞄から取り出したモノを夏樹君に差し出す。


それは、名前が縁起がいいと、受験シーズンによく売れる赤い箱のチョコ菓子だった。


「あげるよ。」


次の瞬間、差し出したその腕を、夏樹君が掴み、私を引き寄せた。


「あなたって人は、ホンマに!」


耳元で、夏樹君の声が響く。


何が起こっているというのか。状況が判断できず動けないでいる私を、夏樹君は抱きしめたまま、


「必ず、必ずまた会いに来ます。」


そう言った。


すぐに私を放した彼は


「ホンマにホンマにありがとうございました。」


そう言って、部屋を出て行った。



一人残された私は、ボーとして、しばらくそこを動けなかった。
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