アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]
その日の夜。

私は当然のように機嫌が悪かった。

志貴はなぜ私の機嫌が悪いのか分かっていないようだった。……いや、正確に言うと、分かっているが面倒くさいから触れてこないようだった。触らぬ神に祟りなし。まさにそんな様子だった。

私と志貴は、結婚してからもずっと同じ布団で寝ている。

今も同じ布団で寝ているのに、なんだか彼が遠く感じた。


「俺がいない間なにかトラブルあった?」

「……ない」

「ならいい」

私は志貴に背を向けてる。志貴は私の方を向いている。

いつもは向かい合ってほとんど志貴に抱っこされるみたいに寝るのに。一週間ぶりに一緒に寝れるのに。

あの元カノのことがちらついて、むかついて、素直になれない。

そんな私を見てとうとう痺れを切らしたのか、志貴が優しい声で聞いてきた。


「……衣都、今更だけどただいま」

「…………遅いよ」

「因みに機嫌が悪い理由を言うなら今だぞ」

「…………」

「……今言うなら、ちゃんと衣都の機嫌良くする」

「………」


志貴のその言葉に、私はなんだか素直になれなかった。

志貴も相当仕事で疲れてる。わかってる。だけど、ここ最近結婚してから女性客の嫉妬の視線を浴びまくっていたし、もっと遡るとこんなことは今までに何回もあった。

なんだかここまで嫉妬されると、本当に自分は志貴に不釣り合いな女なのかもしれないと、自信がなくなってくる。

一度そのことを志貴に話したけど、彼には「俺の妻は衣都なんだから、何も気にすることなんか無いだろ」の一言で片付けられてしまった。

だから今抱えているこのモヤモヤも話したところで同じ言葉を返されて終わりだ。

だったら今このことを話す必要はない。
志貴のことも、これ以上疲れさせたくない。

そう思って、私は「大丈夫。寝れば治る」と言って、寝たふりをした。

志貴は何か言いたげな様子だったけど、一度私の頭を撫でてから、しばらく経って静かに寝息を立て始めた。
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