アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]


次の日、初めて雪に呼び出された。

「昨日、ごめんね。用事長引いちゃって」

泣き腫らした瞼、昨日のキスを雪が見てしまったのは一目瞭然だった。

いくらなんでもそれくらい分かった。

「……雪、あのさ、昨日の」

「紺野くん、私もう無理みたい」

「え」

「昔の紺野くんに会いたかったけど、私じゃ無理みたい」

え、待ってよ。

「私ずっと、中学の頃から、紺野くんが好きだったよ」

待ってよ雪。

そんなの聞いてないよ。


「さようなら」


―――サヨウナラ。

まるで違う国の言語に感じた。

痛くも痒くもないだろうけど。

そう最後に呟いて、遠ざかる彼女の後ろ姿を、呆然と見つめていた。

…それから一週間が過ぎた、今。

俺は、心がポッカリ空いたまま、なんとか一日を終えていた。

もちろん、女の子と遊ぶ気力なんてカケラもない。

総合選択の高校だから、雪と同じ授業は必須科目一つしかないのが唯一の救いだった。

そんな一日がやっと終わった、と安堵して帰ろうとした時、首が一瞬何かに引っ張られた。

「ひろ君のマフラー可愛いー」

「…あ、どーも」

「女の子に貰ったの?」

「………女の子って、いうか」

「愛されてるね。これ手編みじゃん」

「え」

「知らなかったの? 私手芸好きだからわかるよ。めっちゃ愛されてるよひろ君」

―――脳裏を駆け巡るのはあの日の二人。

秋になる少し手前、雪に一回だけ、愛される方が楽だ、という俺の勝手な恋愛論を話したことがあった。

『なんでそう思うの?』

『だって、愛されてる人は、簡単に愛を捨てられるよ』

『…そうかな。そもそもその二種に分けるのが違う気がするけどな』

愛したら必ず愛されるわけじゃないけど、

自分から愛さなきゃ、愛される資格も無くなっちゃうよ。

普通の恋人なら、ね。


「ひろ君…? え、泣いてるの……?」

雪、雪、雪。

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