アイス・ミント・ブルーな恋[短編集]


「……粋、こっち向け」

後ろを振り向いて、麦くんとキスをした。

麦くんとのキスは気持ちいい。柔らかい唇が触れ合うと、麦くんが好きだって気持ちが胸の中に広がって、それ以外何も考えられなくなる。

麦くんが好き。
私を麦くんのものにして欲しい。
本能的に、そう思うの。

キスをしながらぼうっとそんなことを考えていると、麦くんの手が私のお腹を撫でて、徐々に上に移動してきた。

どうして麦くんに触られるのは心地いいのだろう。愛って不思議だ。

「……いや、抵抗しろよ、粋ちゃん」

唇を少しだけ離して、麦くんが少し怒った。

「抵抗したら止めるの?」

「た、たぶん」

「チューしたい」

「ねえ粋ちゃん人の話聞いてる?」

もう一度麦くんの唇に唇を重ねると、彼はもうどうにでもなれと思ったのか、激しく唇を重ねてきた。

麦くんのピアニストのように細く長い指が制服のボタンを器用に開けて、ひんやりとしたクーラーの冷気が直に肌を撫でる。

いつの間にかホックは外されていて、簡単に麦くんの手が滑り込んできた。

麦くんは何も指を動かさずに、ただそこに手を重ねて、

「心臓の音やば」

と言って、笑った。

なんだかそれで私も笑ってしまって、さっきまで悩んでいたことが一気にどうでもよくなってしまった。

もし麦くんに怒られたり嫌われたりしたら、その時はその時だ。

私は麦くんのことが好きなんだから、そうなったら謝ったり機嫌をとったりするしかない。

よく考えたらこんなに幸せな時間をそんな風に不安に思って台無しにしてしまったら勿体無いし、麦くんと一緒にいる時はこんな風に笑っていたいよ。

鈍感でちょっとズレてるらしい私だけど、これからもどうぞよろしくね、麦くん。

「……正直今ドキドキして死にそう」

笑い終えた麦くんが、耳元で少し弱々しく囁く。

直に触れてる麦くんの大きな手を見たら、私もなんだかさっき以上に凄くドキドキしてきた。

え、やばい、なんか、本当にドキドキして死んじゃいそう……。

「む、麦くん、やっぱりちょっと待って……」

「え、今抵抗すんの? 死ねってこと?」

「だってドキドキする!!」

「俺のがしてるよ!」

そういえば、さきちゃんに聞かれた時、麦くんのことを愛犬のおはぎと同じくらい好きだと表現したけれど、それはあながち間違った答えでは無かったよ。

だって、おはぎとぎゅってしたりチュッてしたりすると幸せな気持ちになれるもの。

好きだーって気持ちが身体中に溢れてくるもの。

麦くんにも、おんなじように思っていて欲しいな。

そうして触れた先から伝わればいいのに。

“好き”って気持ちが、全部伝わればいいのにな。




end
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